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桜島

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 「桜島・日の果て・幻化」 梅崎春生 (講談社文芸文庫)


 「桜島」は、米軍上陸に備える最前線で、暗号員として働く男の体験談です。
 「暗い絵」と同じく、終戦翌年の昭和21年に出ました。

 かつて高校の教科書に載っていたこの名作が、講談社文芸文庫でしか読めない。
 値段は1260円。わざわざ買って読む人はいないでしょう。実に悲しい状況です。


桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

  • 作者: 梅崎 春生
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1989/06/05
  • メディア: 文庫



 2008年までは、新潮文庫から短編集「桜島」が、500円で出ていました。
 収録作品は妥当で、カバーの絵も味があります。復刊を強く強く望みます。


桜島 (新潮文庫 う 3-1)

桜島 (新潮文庫 う 3-1)

  • 作者: 梅崎 春生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 文庫



 「桜島」は、戦争末期に村上兵曹が、「桜島」へ移るところから始まります。
 命令ひとつで、最前線である桜島へ転勤させられました。
 そしてそには、逃れられない死があるばかりです。

 いったい何が、人の運命を決めるのでしょうか?
 見張りの男は、こう言います。

 「人間には、生きようという意志と一緒に、滅亡に赴こうという意志があるような
 気がするんですよ。」(P92)

 死というものや、滅亡というものは、人間自身が仕組んだものなのでしょうか。
 この言葉の意味は深いです。

 この本には、4編の短篇が収録されています。
 そして、どの作品からも、「どうしても逃れられない運命の非常さ」を感じました。

 マイ・ベストは、「日の果て」です。
 宇治の意志とは関係なく、何かがどこかで少しずつ狂い、宇治を死に追いやって行く。
 宇治が花田を射殺したのも、花田の女に宇治がやられたのも、逃れられない運命か。

 「幻花」もまた捨てがたい作品です。
 五郎は、丹尾から逃げるように行動したのに、最終的に偶然、丹尾に再会してしまう。

 五郎は思う、「自分の意志とは関係のない何か陰謀めいたものが、煙のように
 彼を取り巻いている。」(P307)と。

 さて、作者の梅崎自身も、「桜島」の村上同様、暗号員として鹿児島に赴任しました。
 だから、この小説はリアルで、迫力があります。

 ところで、野間宏、梅崎春生ときたら、当然、椎名麟三と来なくちゃいけません。
 しかし、この人の代表作(「深夜の酒宴」)が手に入らない!
 あるにはあるのだけど、講談社文芸文庫で1680円ですから。


深夜の酒宴・美しい女 (講談社文芸文庫)

深夜の酒宴・美しい女 (講談社文芸文庫)

  • 作者: 椎名 麟三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/07/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(ランドセルを見に)

 昔は、ランドセルといったら、男児用の黒と、女児用の紺だけでした。
 今は、あるわ、あるわ。赤や青や、ピンクや水色や…

 娘は結局、ワインレッドの渋いランドセルを選びました。よかった。
 うちの地域で、ランドセルといったら、池田屋のぴかちゃんです。





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