「桜島・日の果て・幻化」 梅崎春生 (講談社文芸文庫)
「桜島」は、米軍上陸に備える最前線で、暗号員として働く男の体験談です。
「暗い絵」と同じく、終戦翌年の昭和21年に出ました。
かつて高校の教科書に載っていたこの名作が、講談社文芸文庫でしか読めない。
値段は1260円。わざわざ買って読む人はいないでしょう。実に悲しい状況です。
2008年までは、新潮文庫から短編集「桜島」が、500円で出ていました。
収録作品は妥当で、カバーの絵も味があります。復刊を強く強く望みます。
「桜島」は、戦争末期に村上兵曹が、「桜島」へ移るところから始まります。
命令ひとつで、最前線である桜島へ転勤させられました。
そしてそには、逃れられない死があるばかりです。
いったい何が、人の運命を決めるのでしょうか?
見張りの男は、こう言います。
「人間には、生きようという意志と一緒に、滅亡に赴こうという意志があるような
気がするんですよ。」(P92)
死というものや、滅亡というものは、人間自身が仕組んだものなのでしょうか。
この言葉の意味は深いです。
この本には、4編の短篇が収録されています。
そして、どの作品からも、「どうしても逃れられない運命の非常さ」を感じました。
マイ・ベストは、「日の果て」です。
宇治の意志とは関係なく、何かがどこかで少しずつ狂い、宇治を死に追いやって行く。
宇治が花田を射殺したのも、花田の女に宇治がやられたのも、逃れられない運命か。
「幻花」もまた捨てがたい作品です。
五郎は、丹尾から逃げるように行動したのに、最終的に偶然、丹尾に再会してしまう。
五郎は思う、「自分の意志とは関係のない何か陰謀めいたものが、煙のように
彼を取り巻いている。」(P307)と。
さて、作者の梅崎自身も、「桜島」の村上同様、暗号員として鹿児島に赴任しました。
だから、この小説はリアルで、迫力があります。
ところで、野間宏、梅崎春生ときたら、当然、椎名麟三と来なくちゃいけません。
しかし、この人の代表作(「深夜の酒宴」)が手に入らない!
あるにはあるのだけど、講談社文芸文庫で1680円ですから。
さいごに。(ランドセルを見に)
昔は、ランドセルといったら、男児用の黒と、女児用の紺だけでした。
今は、あるわ、あるわ。赤や青や、ピンクや水色や…
娘は結局、ワインレッドの渋いランドセルを選びました。よかった。
うちの地域で、ランドセルといったら、池田屋のぴかちゃんです。