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魔の山 2

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 「魔の山」 トーマス・マン作 高橋義孝訳 (新潮文庫)


 上巻が700ページあって驚きましたが、下巻はなんと800ページ!
 さすが、魔の山。この山を登るのは、恐ろしい作業です。


魔の山 下 (新潮文庫 マ 1-3)

魔の山 下 (新潮文庫 マ 1-3)

  • 作者: トーマス・マン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1969/03/25
  • メディア: 文庫



 ところで、ハンス・カストルプは、この魔の山に7年滞在するはずです。
 にもかかわらず、上巻が終わった所でまだ半年。

 いったい、7年分をどのように物語るのか。
 もしかして、未完で終わるのだろうか。

 いえいえ、そんなことはなくて、このバランスの悪さは意図的だったのです。
 この物語は、「時間の小説」でもあるのだそうです。(下巻P404~P405)

 「時間とは何か。これは一個の謎である」。
 そう、時間の流れは均等ですが、記憶に残る時間は実に不均等です。

 さて、上巻で活躍(?)したセテムブリーニは、下巻でも絶好調。
 論客として新たに、ナフタというイエズス会士を迎え、語る語る。

 生と死、健康と病気、人と神、肉体と精神、政治と宗教、理性と信仰・・・
 話題は尽きない。が、私はついていけない。

 二人の議論はややこしい。
 しかも、二人は病んでいる。

 「病気はきわめて人間的だ。」と断じるナフタ。
 「なぜなら、人間であることは病気であることだから。」(P241)と。

 二人の議論は真剣そのもの。
 でも、真剣になればなるほど、どこか滑稽なのです。

 ひょっとしたら、結局みんな、ただの「たわごと」なんじゃなかろうか。
 病んだ人間による、壮大な「たわごと」なんじゃなかろうか。と、ふと思う。

 そして、些細なことでふたりは・・・
 この結末は、悲劇というか、茶番というか・・・

 ほかにも、魅力ある人物が目白押し。ショーシャ夫人とペーペルコルン。
 ベーレンス顧問官とクロコフスキー医師・・・みな、忘れられません。

 さて、「ブッデンブローク」は、三代にわたる年月が、綿密に描かれていました。
 それに比べて「魔の山」は、まとまりがないです。

 では、「魔の山」が「ブッデンブローク」に劣るかというと、全くそんなことはない。
 「魔の山」のまとまりのなさもまた、綿密な計算があってのことだと思います。

 ばかばかしいおしゃべり、意図の分からない脱線・・・
 そういう部分も含めて、強烈な印象が残りました。
 時間を置いて、もう一度じっくり味わいたい作品です。

 余談ですが、マンは夫人をダボスに見舞ったとき、この小説を思いついたそうです。
 最初、短編のつもりが、結局12年の月日を費やし、この壮大な物語となったのです。

 さいごに。(気難しくなった娘)

 うちの娘は最近、私が品のない冗談を言うと、本気で怒るようになりました。
 少し前までは、一緒に喜んでくれていたのですが。
 そういう気難しい年頃に、なってきたのでしょうか。

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