「イリアス(下)」 ホメロス作 松平千秋訳 (岩波文庫)
(今回はネタばれが多めです)
アキレウスとヘクトルの一騎打ちを中心に、トロイア戦争の終盤を描いています。
岩波文庫から出ています。訳は1992年で、比較的新しいため、読みやすいです。
ヘクトルは、アポロン神の加護を受けて、獅子奮迅の活躍をしています。
しかしそれも、アキレウスによって討たれる運命への、前奏曲のようなもの。
アキレウスは、とうとう奮起して、トロイア軍を散々に蹴散らしています。
それでも、この戦争で命を落とす運命は、まったく変えようがありません。
そしていよいよ、トロイア第一の英雄と、ギリシア第一の英雄の一騎撃ち。
ヘクトル目指して、アキレウスは猛然と向かっていきますが・・・
もしアキレウスがいつまでもへそを曲げていれば、どうだったでしょうか。
おそらく自身もヘクトルも助かったはずです。物語はつまらなくなりますが。
ところがここで、アキレウスの戦友パトロクロスが、重要な役割を果たします。
パトロクロスは、いかにしてアキレウスの目を覚ましたか?
パトロクロスによって、アキレウスの気持ちが変わり、運命も変わります。
そして、戦況までも全く変わりますが、これも神々の計画のうちです。
死を免れないと知っていながら、戦いを選ぶ英雄、ヘクトルとアキレウス。
神々に翻弄される二人の運命に、「死すべき人間」の悲哀を感じます。
さて、「イリアス」は文句なく、最古にして最高のギリシア叙事詩です。
ただし長すぎます。忙しい現代人には、退屈する場面がけっこうあります。
たとえば、人間たちの必死な戦闘の合間に、神々がちょこちょこ現れます。
引っ込んでいろ、と言いたい。第十八歌や第二十歌は無くてもいいでしょう。
また人間界でも、第二十三歌の葬送競技の場面は、無い方がいい気がします。
第二歌の軍船の表もいらないでしょう。普通、読み飛ばしますから。
逆に、馬が人語でアキレウスの運命を予告する場面は、まさに絶妙です。
また、第六歌の武具の交換の場面は、その後の運命も含めて、味わい深いです。
下巻の巻末には、ヘロドトスが書いたと言われる「ホメロス伝」が付いています。
真偽は分からないものの、興味深い資料なのでとてもありがたいです。
私は個人的に、アイネイアスのその後が気になります。
トロイア陥落後、武将でただ一人生き残り、トロイア再建に努めました。
そしてのちに、ローマ建国にも関わったことになっています。
しかし、ウェルギリウスの叙事詩「アイネイアス」は、絶版で手に入りません。
「イリアス」を読んだら、次は「オデュッセイア」に進むというのが王道です。
「オデュッセイア」も、幸い岩波文庫から出ています。
さいごに。(熊本地震)
私の下の妹は、4月に夫婦で熊本に住み始めたばかりでした。
ほとんど知り合いもいない中で、いきなりこの地震。とても心配です。