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コスメティック

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 「コスメティック」 林真理子 (小学館文庫)


 化粧品業界を舞台に、30代の沙美が仕事と恋に全力で取り組む姿を描いた物語です。
 1999年に出てベストセラーとなり、2003年にTVドラマとなって放映されました。


コスメティック (小学館文庫)

コスメティック (小学館文庫)

  • 作者: 林 真理子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2002/10/01
  • メディア: 文庫



 北村沙美は、広告代理店で働く30歳の女性ですが、職場環境に幻滅していました。
 たまたま休暇で訪れたパリで、田代という男に出会い、人生が転換していきます。

 田代は、フランスの化粧品会社コリーヌ日本支社の広報担当をしていました。
 早くも帰りの飛行機で、沙美は田代からPRマネージャーにスカウトされます。

 「仕事でも恋でも百パーセント幸福になってみせる」
 そして沙美の、女のプライドをかけた戦いが始まりました・・・

 相変わらず林真理子の小説は面白いです。主人公の沙美がとてもいいです。
 がんばっている沙美の熱い言葉から、たくさんの元気をもらいました。

 「でもね、私はみじめな場所にいるのが、一日だって耐えられないの。(中略)
 私ね、息切れするくらい働きたいの。やりかけたレースを途中で降ろされるのって
 嫌なの」

 「この先どうなるかわからないミステリー小説を読み始めたっていう感じ。結論が
 知りたくってうずうずしているの。息もつかずにページをめくるように、毎日仕事
 してるわ。これってやっぱり楽しいことでしょう。」

 それに引き換え、恋人の直樹が言う言葉には、いつもげんなりさせられました。
 直樹のようなつまらない男を描くのも、林真理子はうまいですね。

 直樹と別れ、男の束縛から解放されることによって、沙美は能力を発揮し始めます。
 そして人が存分に力を発揮した時、自然にツキも巡ってきます。そういうものです。

 さて、直樹、田代、竹崎たち男どもはみな、身勝手な連中ばかりです。
 しかし、不思議と田代だけは憎めませんでした。

 「でも仕事なんて何をやっても空しさと背中合わせみたいなもんだよ。こっちの調子
 がよければ、その空しさはくるっとあちら側を向いて、調子が悪いと空しさは目の前
 にどんとくる。だから出来るだけ調子をよくして、空しさをあちら側に向かせるよう
 にしなきゃいけないんだ」

 と言う彼の言葉には、真実があります。
 老練ですが自信に満ちたこの男は、確かに魅力的な大人の男だと思いました。

 「コスメティック」の面白さは、私にとっては「不機嫌な果実」以上でした。
 化粧品業界の裏事情が克明に描かれている点でも興味をそそります。オススメ。

 さいごに。(うるせえ)

 「パパは自分が都合悪くなると、すぐ、『うるせえ』って言うよね」と娘。
 「うるせえ」と、つい私は答えてしまい、娘と妻の失笑を買ってしまいました。

 娘が私を真似て「うるせえ」と言ったので、叱ったのですが、娘は納得しません。
 面倒くさいことになりそうなので、「うるせえ」はしばらく封印します。

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