「断崖」 ゴンチャロフ作 井上満訳 (岩波文庫)
青年地主ライスキーの、領地における恋の物語です。
ゴンチャロフにとって、最後で最大の長編小説です。
現在、岩波文庫から出ています。全5冊の復刊が、2011年に完結したばかり。
初版は1949年! 所々に分かりにくい表現があるのは、仕方がないか。
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- 作者: ゴンチャロフ
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/09/17
- メディア: 文庫
ライスキーは、35歳ぐらいの地主で、いわゆる失敗者。
軍隊は続かず、官吏も続かず、どこにも勤めずにぶらぶらしています。
絵や文学の才能があるために、画家を志したり、小説家を志したりしますが、
「きっといつかは」と言うばかりで、いつまでたっても、何事も成し遂げません。
こういう人います。中途半端に能力があるために、何をやっても長続きしない人。
芸術家肌といえばカッコイイけど、要するに、単なるなまけ者ですよ。
そんなライスキーも、いっちょまえに恋をします。
中でも、領地に住む従妹のヴェーラにはご執心。
相手に拒絶されているのに、しつこく追い回して、みっともない、みっともない。
35で、これでは、モテないでしょう。(でも、そこが、かわいかったりする。)
美しくて聡明なヴェーラは、ほとんどライスキーを馬鹿にしています。
ライスキーを、「私の奴隷さん」と呼んだりなんかして。
それに、ヴェーラは実は、ある人と恋に落ちていて…
さて、ライスキー以上に存在感があるのが、65歳の祖母、タチヤーナです。
頼りになるおばあちゃんで、とてもカッコイイ。
タチヤーナは、ダメ男のライスキーに代わって、領地を一手に管理しています。
そして、言うべきことは言い、やるべきことはやる。
実力者で悪人のニールをやり込める場面(第3部2章)は、名場面です。
ほかにも、つまはじき者の無頼漢マルク、旧友の教師で本の虫のレオンチーなど、
個性的な脇役がいて、彼らとの生き生きした会話が、この小説の最大の魅力です。
ただし、20年にわたって書き継がれた結果、一貫性が欠けています。
ヴェーラの性格が、失恋後に変わってしまう所は、当時から批判がありました。
また、面白い章と、つまらない章が、はっきり分かれています。
しかしそれでも、この作品には引き付けられます。日本でも、もっと読まれていい。
そのためには、ぜひ改版を出してほしいものです。
例えば、「ちんと言えば、かん」(2巻P141、3巻P375)なんて言葉がありました。
「ああ言えばこう言う」という意味でしょうか。調べても分かりません。
また、第4巻に、あとがきみたいな付録が付いているのも、違和感があります。
そこで読んでも、意味が分かりません。ただのページ調整なら、ないほうがいい。
さいごに。(パンダの顔をした人)
少し前のことですが、娘の夢に、パンダの顔をした人が、出てきたのだそうです。
怖かったので、娘が逃げると、パンダ人間は、追っかけて来ました。
ママが助けに来て、おんぶしてくれて、逃げることができたのだそうです。
それ以降、娘の夢に、時々パンダ人間が現れると言います。
「今度はパパが助けに来てよ」と言っていますが、どうしたらよいのやら。