「断崖」 ゴンチャロフ作 井上満訳 (岩波文庫)
青年地主ライスキーの、領地における恋の物語です。
ゴンチャロフにとって、最後で最大の長編小説です。
現在、岩波文庫から出ています。全5冊の復刊が、2011年に完結したばかり。
初版は1949年! 所々に分かりにくい表現があるのは、仕方がないか。
ライスキーは、35歳ぐらいの地主で、いわゆる失敗者。
軍隊は続かず、官吏も続かず、どこにも勤めずにぶらぶらしています。
絵や文学の才能があるために、画家を志したり、小説家を志したりしますが、
「きっといつかは」と言うばかりで、いつまでたっても、何事も成し遂げません。
こういう人います。中途半端に能力があるために、何をやっても長続きしない人。
芸術家肌といえばカッコイイけど、要するに、単なるなまけ者ですよ。
そんなライスキーも、いっちょまえに恋をします。
中でも、領地に住む従妹のヴェーラにはご執心。
相手に拒絶されているのに、しつこく追い回して、みっともない、みっともない。
35で、これでは、モテないでしょう。(でも、そこが、かわいかったりする。)
美しくて聡明なヴェーラは、ほとんどライスキーを馬鹿にしています。
ライスキーを、「私の奴隷さん」と呼んだりなんかして。
それに、ヴェーラは実は、ある人と恋に落ちていて…
さて、ライスキー以上に存在感があるのが、65歳の祖母、タチヤーナです。
頼りになるおばあちゃんで、とてもカッコイイ。
タチヤーナは、ダメ男のライスキーに代わって、領地を一手に管理しています。
そして、言うべきことは言い、やるべきことはやる。
実力者で悪人のニールをやり込める場面(第3部2章)は、名場面です。
ほかにも、つまはじき者の無頼漢マルク、旧友の教師で本の虫のレオンチーなど、
個性的な脇役がいて、彼らとの生き生きした会話が、この小説の最大の魅力です。
ただし、20年にわたって書き継がれた結果、一貫性が欠けています。
ヴェーラの性格が、失恋後に変わってしまう所は、当時から批判がありました。
また、面白い章と、つまらない章が、はっきり分かれています。
しかしそれでも、この作品には引き付けられます。日本でも、もっと読まれていい。
そのためには、ぜひ改版を出してほしいものです。
例えば、「ちんと言えば、かん」(2巻P141、3巻P375)なんて言葉がありました。
「ああ言えばこう言う」という意味でしょうか。調べても分かりません。
また、第4巻に、あとがきみたいな付録が付いているのも、違和感があります。
そこで読んでも、意味が分かりません。ただのページ調整なら、ないほうがいい。
さいごに。(パンダの顔をした人)
少し前のことですが、娘の夢に、パンダの顔をした人が、出てきたのだそうです。
怖かったので、娘が逃げると、パンダ人間は、追っかけて来ました。
ママが助けに来て、おんぶしてくれて、逃げることができたのだそうです。
それ以降、娘の夢に、時々パンダ人間が現れると言います。
「今度はパパが助けに来てよ」と言っていますが、どうしたらよいのやら。