「怖い絵」 中野京子 (角川文庫)
怖い絵を通して、その背景にある歴史的事実を解説したエッセイです。
ドイツ文学者の著者は、この作品で注目されるようになりました。
角川文庫から出ています。シリーズ化されて、全3巻が出ています。
図版が豊富ですが、絵が小さいため、細かいところがよく見えません。
「怖い絵」第一巻では、22の作品が取り上げられています。
ドガ、ボッティチェリ、ゴヤ、ムンク、ルドン、ゴッホなどが、続々と登場します。
中野がこの本を書いたきっかけは、「マリー・アントワネット最後の肖像」です。
処刑の日、さらし者になっている元王妃を、ダヴィッドがスケッチしたものです。

ダヴィッドといえば、「ナポレオンの戴冠式」を描いた画家です。
だから、これを書いた当時の彼が、ジャコバン党員だったと知って驚きました。

さて、ダヴィッドの「マリー・アントワネットの最期の肖像」について。
この簡単なスケッチについての、中野の解釈がとても面白かったです。
ダヴィッドは、悪意を込めて外見を醜く描いたものの、「心は何ものにも屈せざる
大した女性を描いてしまった」ことで、内心うろたえたのではないかと言います。
それこそ、第一流の芸術家の宿命というものでしょうか。
時流に乗って変節した生き方は二流かもしれないが、その絵は文句なく一流でした。
ほかに、「我が子を喰らうサトゥルヌス」、「キュクロプス(一つ目巨人)」、
「ホロフェルネスの首を斬るユーディット」等、いかにも怖い絵が多くあります。
また、「エトワール、または舞台の踊り子」、「グラハム家の子どもたち」、
「空気ポンプの実験」等、一見すると普通なのに、実は怖い絵というのもあります。
しかし、私が一番怖いと思ったのは、ムンクの人生です。
ムンクは、自ら精神科に入院し、心身の健康を取り戻すと、良い絵が描けなくなった。
「病める魂が鎮まるとともに、ムンクの天才も消えてしまったのだ。」(P151)
ムンクの画家としての運命は、あまりにも残酷で、怖かったです。
逆にゴッホは、死の前の3年間、狂気とともに天才を発揮し、燃え尽きました。
ムンクとゴッホ、どちらが幸せだったのか、微妙なところです。
さいごに。(紅葉)
家族3人で、紅葉を見に行きました。
ほとんど終わっていましたが、散りぎわの時期独特の、寂しい情緒がありました。
