「少年たちの終わらない夜」 鷺沢萠 (河出文庫)
私立高校3年生の男女が、青春時代最後の夏を、激しく駆け抜けてゆく物語です。
35歳で自殺した作者が、大学時代に書いた初期の名作です。
河出文庫で出ていましたが、現在は品切れです。アマゾンでは1円。
タイトル作ほか全4編を収めた短編集です。

少年たちの終わらない夜 (河出文庫―BUNGEI Collection)
- 作者: 鷺沢 萠
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1993/07
- メディア: 文庫
主人公の川野真規(まさき)は、某私立高校3年のバスケ部のスター選手です。
ある合コンで知り合った、笠井陽子と付き合い始めますが・・・
学校はサボる、酒は飲む、タバコは吸う、女をひっかける、他校とケンカする。
しかし、どんなにバカ騒ぎしても、彼らの心が満ち足りることがありません。
「都会の上空には油のような膜が張っている。その油膜は飽和していて、
下にいる人間は息を吸うのさえ辛い。飽和した膜を突き破って上に出るこ
とができれば、呼吸も楽になるはずだーー」(P39)
その油膜を突き破るために、真規は崖っぷちを歩くような生活をしています。
陽子が「コワイ」と言うのも、当然でしょう。
この作品が出たのは1989年で、いわゆるバブル時代です。
ほかの3編も、バブル時代の雰囲気が漂っています。
私も鷺沢さんと同年代なので、あの異常な雰囲気がよく分かります。
誰もが浮かれて大騒ぎしながら、どこか間違っていると感じていました。
他の作品では、「誰かアイダを探して」が、短いながらも印象に残りました。
アイダは言う。「楽しそうなフリしてることに、疲れちゃったの。」と。
さて、鷺沢萠の代表作に、「大統領のクリスマスツリー」があります。
こちらの主人公は若夫婦です。雰囲気もだいぶ違います。
講談社文庫から出ていましたが、現在は品切れです。アマゾンで1円。
1990年代に出て、映画化された感動作ですが、もう読まれないのでしょうか。
香子(きょうこ)と治貴(はるき)は、結婚して11年になります。
ドライブをしながら、香子は二人でつむいできた生活を振り返ります。
結婚してがむしゃらに働いて、ようやく手に入れた幸せでしたが・・・
治貴はいつも優しくて、自分にとってかけがえのない存在でしたが・・・
私は、「治貴」が、気持ちが悪いほど理想的に描かれていると思いました。
だからこそ、この結末? 治貴がイイ男なので、余計にせつなくなります。
さて、鷺沢萠は、女子校時代に注目され、女子大時代にデビューしました。
その後、三度も芥川賞候補になりながら、結局受賞できませんでした。
そして2004年、35歳のとき、突然自宅で自殺して果てました。
原因は、よく分かっていません。いまだに謎が多い作家です。
彼女が命を削るようにして書いた作品は、書店でもう見かけなくなりました。
古本屋の100円コーナーに、まとまって置いてあるのを見ると悲しくなります。
さいごに。(交換日記)
娘のクラスの女子の間では、交換日記がブームです。
娘も交換日記を頻繁に持ち帰り、宿題の日記以上に時間をかけて書いてます。