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雪屋のロッスさん

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 「雪屋のロッスさん」 いしいしんじ (新潮文庫)


 さまざまな職業の人を主人公にした、30編のショートショート集です。
 2010年に新潮文庫から出ましたが、すでに絶版。アマゾンで1円です。


雪屋のロッスさん (新潮文庫)

雪屋のロッスさん (新潮文庫)

  • 作者: いしい しんじ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/12/24
  • メディア: 文庫



 何でも盗める大泥棒、鳥の顔をした警察官、神が見える神主、雨乞いの達人、
 象の生まれ変わりと言われる少女、王子と神様、生ごみ用のポリバケツ・・・

 ユニークな仕事人、少しヘンな仕事人が、続々と登場して飽きません。
 中でも、作品としてすばらしいのが、「調律師のるみ子さん」です。

 るみ子さんは、調律に訪れた盲目の老人に、こう言われてしまいました。
 「あなたは本当のところ、ピアノのことが、あまりお好きではないようですね」

 しかし、かつてるみ子さんは、誰よりもピアノを愛していたのです。
 ピアニストを目指していた頃、誰よりもピアノの音に敏感だったのです。

 るみ子さんには、いったい何があったのか?
 そして、るみ子さんは、いかに癒されていくのか?

 わずか5ページのこの作品のために、この本を買ってもいいとさえ思います。
 その一方で「警察官の石田さん」のような、理解不能な作品もありますが。

 いしいしんじの代表作「トリツカレ男」も、同じ新潮文庫から出ています。
 何にでもとりつかれて夢中になる男と、風船売りの少女との純愛の物語です。


トリツカレ男 (新潮文庫)

トリツカレ男 (新潮文庫)

  • 作者: いしい しんじ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/03/28
  • メディア: 文庫



 ジュゼッペは、みんなから「トリツカレ男」と呼ばれています。
 それは、一度何かにとりつかれたら、とことん夢中になってしまうからです。

 あるときジュゼッペは、公園で風船売りの少女ペチカを見かけました。
 そのときから、ジュゼッペはペチカにとりつかれてしまって・・・

 内容は子供向けだと思いますが、時々ハッとするような言葉に出会います。
 さりげない言葉で人生の深いところを突きます。これぞ、いしいワールド。

 「そのいち。氷の上の私たちは、いつかきっと転ぶ」
 「そのに。転ぶまではひたすら懸命に前へ前へとすべる」

 そして、「そのさん」がいい。「そのさん。転ぶとき、転ぶその瞬間には、
 自分にとって、いちばん大事なひとのことを思う。そのひとの名前を呼ぶ。」

 いしいしんじの作品は、どれもちょっと不思議な浮遊感があります。
 しかし、何よりも不思議な浮遊感を漂わせているのは、作者自身でしょう。

 いしいしんじは、ある日突然「シーラカンスの刺身を食べたい」と言って、
 休みをもらって、コモロ(シーラカンスが捕れる)を訪れたりしたのです。

 さいごに。(鎌倉旅行2)

 鶴岡八幡宮を早朝訪れると、ライトアップされていました。
 人がいなくて静かで、そしてとてもきれいでした。

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