「トロイア戦記」 クイントゥス作 松田治訳 (講談社学術文庫)
(今回はネタバレがやや多めです)
ホメロスの「イーリアス」と「オデュッセイア」の間を埋める、長大な叙事詩です。
作者は、3世紀に小アジアのスミュルナで活躍した、有名なギリシャ詩人です。
講談社学術文庫から出ていました。本邦初訳の貴重な本ですが、現在は品切れです。
中古本がアマゾンで安く手に入りますが、ぜひ復刊させてほしいです。
この叙事詩は、「ホメロス以後」と呼ばれていました。
「イーリアス」の最後、アキレウスがヘクトルを倒した後から、物語は始まります。
アマゾンの女王ペンテシレイアの参戦、エチオピアの英雄メムノーンの参戦、
さらに、ヘラクレスの孫エウリュピュロスの参戦、そして、パリスの最後・・・
アキレウスの活躍と最期、その息子ネオプトレモスの参戦、アイアースの悲劇、
ピロクテーテースの参戦、そして、木馬の計略とトロイア陥落・・・
英雄たちが、次から次に登場し、次から次に退場していきます。
人間どもは敵も味方もみな、散々な目にあいます。これでは勝ちも負けもない。
さて、この叙事詩はホメロスを模倣し、ホメロスのあとを補っています。
トロイア戦争の終局を描いたものとしては、最古のものだそうです。
訳の文章は散文的で、やや説明的でしたが、そのぶん分かりやすかったです。
比較的細かく分割されていて、小見出しが付いているのも、ありがたかったです。
これまで知らなかったエピソードがたくさん出てきました。
たとえば、息子の枕頭に立ったアキレウスは、なかなか良いことを言っています。
「人間の種族は草花に、春の花に似ているではないか。
枯れるのもあれば、伸びるのもある。それゆえ、やさしくあれ。」(P422)
ところが、「やさしくあれ」と言ったあと、アキレウスが求めた犠牲は・・・
あんた、それは矛盾しないか、と口をはさみたくなります。
ほかにも、多くの挿話を盛り込みながら、全14巻にわたって語られています。
これを読み終わったら、次はいよいよ「オデュッセイア」でしょう。
松田治が訳した叙事詩には、「ヘレネー誘拐・トロイア落城」もあります。
こちらは、一つのエピソードを取り上げただけの、とても短い叙事詩です。
「ヘレネー誘拐」は、注釈などを抜くと、正味はわずか25ページほどです。
エリスの黄金のリンゴ、パリスの審判、ヘレネー誘拐が描かれています。
「トロイア落城」は、注釈などを抜くと、正味はわずか40ページほどです。
木馬の建造と計略、トロイアの落城と大殺戮が描かれています。
「ヘレネー誘拐」も「トロイア落城」も、どちらかというとマニア向けです。
現在、アマゾンでは品切れのようです。まあ、しかたないか。
さいごに。(三島スカイウォーク)
三島に昨年末、全長日本一の吊り橋ができました。三島スカイウォークです。
昨日、家族で行きました。富士山が霞んでいたけど、迫力ある景色でした。
