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トロイア戦記

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 「トロイア戦記」 クイントゥス作 松田治訳 (講談社学術文庫)

 (今回はネタバレがやや多めです)

 ホメロスの「イーリアス」と「オデュッセイア」の間を埋める、長大な叙事詩です。
 作者は、3世紀に小アジアのスミュルナで活躍した、有名なギリシャ詩人です。

 講談社学術文庫から出ていました。本邦初訳の貴重な本ですが、現在は品切れです。
 中古本がアマゾンで安く手に入りますが、ぜひ復刊させてほしいです。


トロイア戦記 (講談社学術文庫)

トロイア戦記 (講談社学術文庫)

  • 作者: クイントゥス
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/09/08
  • メディア: 文庫



 この叙事詩は、「ホメロス以後」と呼ばれていました。
 「イーリアス」の最後、アキレウスがヘクトルを倒した後から、物語は始まります。

 アマゾンの女王ペンテシレイアの参戦、エチオピアの英雄メムノーンの参戦、
 さらに、ヘラクレスの孫エウリュピュロスの参戦、そして、パリスの最後・・・

 アキレウスの活躍と最期、その息子ネオプトレモスの参戦、アイアースの悲劇、
 ピロクテーテースの参戦、そして、木馬の計略とトロイア陥落・・・

 英雄たちが、次から次に登場し、次から次に退場していきます。
 人間どもは敵も味方もみな、散々な目にあいます。これでは勝ちも負けもない。

 さて、この叙事詩はホメロスを模倣し、ホメロスのあとを補っています。
 トロイア戦争の終局を描いたものとしては、最古のものだそうです。

 訳の文章は散文的で、やや説明的でしたが、そのぶん分かりやすかったです。
 比較的細かく分割されていて、小見出しが付いているのも、ありがたかったです。

 これまで知らなかったエピソードがたくさん出てきました。
 たとえば、息子の枕頭に立ったアキレウスは、なかなか良いことを言っています。

 「人間の種族は草花に、春の花に似ているではないか。
 枯れるのもあれば、伸びるのもある。それゆえ、やさしくあれ。」(P422)

 ところが、「やさしくあれ」と言ったあと、アキレウスが求めた犠牲は・・・
 あんた、それは矛盾しないか、と口をはさみたくなります。

 ほかにも、多くの挿話を盛り込みながら、全14巻にわたって語られています。
 これを読み終わったら、次はいよいよ「オデュッセイア」でしょう。

 松田治が訳した叙事詩には、「ヘレネー誘拐・トロイア落城」もあります。
 こちらは、一つのエピソードを取り上げただけの、とても短い叙事詩です。


ヘレネー誘拐・トロイア落城 (講談社学術文庫)

ヘレネー誘拐・トロイア落城 (講談社学術文庫)

  • 作者: コルートス
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/02
  • メディア: 文庫



 「ヘレネー誘拐」は、注釈などを抜くと、正味はわずか25ページほどです。
 エリスの黄金のリンゴ、パリスの審判、ヘレネー誘拐が描かれています。

 「トロイア落城」は、注釈などを抜くと、正味はわずか40ページほどです。
 木馬の建造と計略、トロイアの落城と大殺戮が描かれています。

 「ヘレネー誘拐」も「トロイア落城」も、どちらかというとマニア向けです。
 現在、アマゾンでは品切れのようです。まあ、しかたないか。

 さいごに。(三島スカイウォーク)

 三島に昨年末、全長日本一の吊り橋ができました。三島スカイウォークです。
 昨日、家族で行きました。富士山が霞んでいたけど、迫力ある景色でした。

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