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死都ブリュージュ

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 「死都ブリュージュ」 ローデンバック作 窪田般彌(はんや)訳 (岩波文庫)


 愛妻の面影を求め続ける男と、愛妻に生き写しの女との、愛の悲劇の物語です。
 世紀末のブリュージュを舞台に、ベルギーのローデンバックが書いた傑作です。

 岩波文庫から1988年に出ています。1976年に刊行されたものの改訳です。
 ブリュージュを描いた三十数点の挿絵が、幻想的な雰囲気を醸し出しています。


死都ブリュージュ (岩波文庫)

死都ブリュージュ (岩波文庫)

  • 作者: G. ローデンバック
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1988/03/16
  • メディア: 文庫



 愛妻を亡くしたユーグは、5年前にブリュージュに移り住みました。
 まだ40になったばかりなのに、仕事もせず、生きた屍のように暮らしています。

 夕方はいつも、妻の面影を求めて、ブリュージュの街をさまよい歩いています。
 そしてある日、ユーグが散歩中に見かけた女は、亡き妻に瓜二つでした。

 いや、あれは妻だ、妻が帰ってきたのだ。死もここでは一時の不在にすぎない。
 永遠に終わってしまったと思われた恋が、今また始まろうとしているのだ!

 彼女の名はジャーヌ。幻影だと知りつつも、ユーグは彼女と暮らし始めます。
 しかし身代わりの愛は幻滅に変わり、やがて悲劇的な結末へ向かって・・・

 私がこの物語を知ったのは、中野京子の「怖い絵」によってです。
 クノップフの「見捨てられた街」は、死都ブリュージュを描いた絵だそうです。

 44歳のクノップフは、小説「死都ブリュージュ」に激しく心を捕えられました。
 以来まるで取りつかれたように、彼はブリュージュの絵ばかり描き続けました。

 「見捨てられた街」は、内部に死を抱えたまま、ゆっくり海を迎えています。
 「やがて確実に、全てが海底という記憶の底へ沈んでゆくだろう。」・・・

 地味なのに、心をかきみだされる絵です。人をとても不安にさせる絵です。
 この絵を見て、ぜひ「死都ブリュージュ」を読んでみたいと思ったのです。

クノップフimg_0.jpg

 さて、恥ずかしながら私は、ブリュージュを架空の街だと思っていました。
 もちろん実在の都市です。ブルッヘとオランダ語読みした方が分かりやすい。

 ブリュージュは、かつては繁栄を誇った商業都市で、その後衰退しました。
 この死都の絵が三十数点も、物語の中に挿し込まれています。

 というのも、主人公はユーグでもジャーヌでもなく、死都ブリュージュだから。
 「あらゆる都市は一つの精神状態であって、」われわれに感染するのだそうです。

 この物語を読むと、ブリュージュという都市に、ますます興味が湧いてきます。
 中公新書の「ブリュージュ」本は、アマゾンで1円です。読んでみたいです。


ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石 (中公新書)

ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石 (中公新書)

  • 作者: 河原 温
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 新書



 さいごに。(もしクーラーが無かったら)

 先日、気温36度を記録しました。クーラーが無かった、どうなっていただろうか。
 昨年、思い切って家にクーラーを設置して、本当に良かったと思っています。

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