「死都ブリュージュ」 ローデンバック作 窪田般彌(はんや)訳 (岩波文庫)
愛妻の面影を求め続ける男と、愛妻に生き写しの女との、愛の悲劇の物語です。
世紀末のブリュージュを舞台に、ベルギーのローデンバックが書いた傑作です。
岩波文庫から1988年に出ています。1976年に刊行されたものの改訳です。
ブリュージュを描いた三十数点の挿絵が、幻想的な雰囲気を醸し出しています。
愛妻を亡くしたユーグは、5年前にブリュージュに移り住みました。
まだ40になったばかりなのに、仕事もせず、生きた屍のように暮らしています。
夕方はいつも、妻の面影を求めて、ブリュージュの街をさまよい歩いています。
そしてある日、ユーグが散歩中に見かけた女は、亡き妻に瓜二つでした。
いや、あれは妻だ、妻が帰ってきたのだ。死もここでは一時の不在にすぎない。
永遠に終わってしまったと思われた恋が、今また始まろうとしているのだ!
彼女の名はジャーヌ。幻影だと知りつつも、ユーグは彼女と暮らし始めます。
しかし身代わりの愛は幻滅に変わり、やがて悲劇的な結末へ向かって・・・
私がこの物語を知ったのは、中野京子の「怖い絵」によってです。
クノップフの「見捨てられた街」は、死都ブリュージュを描いた絵だそうです。
44歳のクノップフは、小説「死都ブリュージュ」に激しく心を捕えられました。
以来まるで取りつかれたように、彼はブリュージュの絵ばかり描き続けました。
「見捨てられた街」は、内部に死を抱えたまま、ゆっくり海を迎えています。
「やがて確実に、全てが海底という記憶の底へ沈んでゆくだろう。」・・・
地味なのに、心をかきみだされる絵です。人をとても不安にさせる絵です。
この絵を見て、ぜひ「死都ブリュージュ」を読んでみたいと思ったのです。

さて、恥ずかしながら私は、ブリュージュを架空の街だと思っていました。
もちろん実在の都市です。ブルッヘとオランダ語読みした方が分かりやすい。
ブリュージュは、かつては繁栄を誇った商業都市で、その後衰退しました。
この死都の絵が三十数点も、物語の中に挿し込まれています。
というのも、主人公はユーグでもジャーヌでもなく、死都ブリュージュだから。
「あらゆる都市は一つの精神状態であって、」われわれに感染するのだそうです。
この物語を読むと、ブリュージュという都市に、ますます興味が湧いてきます。
中公新書の「ブリュージュ」本は、アマゾンで1円です。読んでみたいです。
さいごに。(もしクーラーが無かったら)
先日、気温36度を記録しました。クーラーが無かった、どうなっていただろうか。
昨年、思い切って家にクーラーを設置して、本当に良かったと思っています。