「パニック・裸の王様」 開高健 (新潮文庫)
ネズミの大発生による騒動を描いた「パニック」など、短編全4編を収めています。
サントリー宣伝部時代の1957年~1959年に書いた、作者の初期の傑作短編集です。
「知的な痴的な教養講座」で開高健の語り口にしびれたら、次はぜひ小説を読みたい。
新潮文庫のこの本は、芥川賞受賞の「裸の王様」など、傑作ぞろいでオススメです。
「パニック」は、ネズミの大発生と、それに翻弄される人間を描いています。
主人公の俊介は、県庁山林課で、鼠害を最小限に食い止めるために戦います。
120年ぶりに笹が実を結び、地下ではネズミたちの大繁殖の兆しが見られました。
俊介は被害を未然に防ぐため、上司に対策を提案しますが、相手にされません。
怠惰な組織は、問題が表面化するまで、リスクのある行動を取らないのです。
そして問題が表面化すると、責任のなすりつけとごまかしに走るのでした・・・
ネズミと戦う俊介は、同時に腐敗した組織と戦っています。
そして悲しいことに、俊介自身も腐った手の中に、からめ取られていくのです。
暴走するネズミたちが、私には天から遣わされた生き物のように思えてきました。
彼らは社会の腐敗を一掃するという使命を与えられ、やって来たのではないか?
そして驚くべき結末! 最後は怒りと虚脱感と、なぜか感動でいっぱいでした。
わずか60ページですが、とても強烈で、開高健の作品中最も印象的な作品です。
「裸の王様」は「パニック」と並ぶ代表作で、芥川賞受賞作でもあります。
画塾を経営している「僕」と、生徒の大田太郎の心の交流を描いています。
太郎は大商人の一人息子ですが、家庭では疎外されてどこか歪んでいました。
「僕」は太郎と一緒に川原で遊ぶなどして、彼の心を徐々に開いていき・・・
解説では、「作者は打算と偽善と虚栄と迎合にみちた社会のなかで、ほとんど
圧殺されかかっている生命の救出を描いている。」と、うまくまとめています。
太郎が描いた裸の王様は、欺瞞に満ちた大人たちをも表しているのではないか。
「王様は裸だ!」という小さい叫び声が、どこからか聞こえてきそうでした。
「巨人と玩具」は、製菓会社のキャラメル販売合戦の徒労を描いています。
身を粉にして働き、多くの犠牲の出した挙句、巨人たちは共に滅んでいく!
「流亡記」は、ある日突然万里の長城建設にかり出された男の物語です。
巨大で合理的で非情なシステムのもと、自由な者などは存在しません。
「誰ひとりなんのためかわからず、どこをめざしているのかも分からない」
この「厖大な徒労」からまぬがれるために、彼はどんな決断をしたのか?
全4編いずれも傑作だと思います。特に語り口がいいです。クセになります。
開高健は遅筆で有名でしたが、作品に妥協をしなかったためなのでしょうか。
余談ですが、山口瞳の「男性自身 傑作選」を購入しました。
時間がある時に、のんびりと読みたいです。
さいごに。(楽しかった食べ歩き)
伊勢神宮に行ってきました。1泊してきました。
荘厳で厳粛な雰囲気でした。さすが、神々の宿る土地です。
一方で、おはらい町やおかげ横丁での食べ歩きも楽しかったです。
シュークリーム、赤福、松坂牛串、松坂牛モツ汁、カキフライ、
さわ餅、ハマグリ串、鶏の皮揚げ・・・ああ、本当によく食べた!

