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神経病時代

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 「神経病時代・若き日」 広津和郎 (岩波文庫)


 「神経病時代」は、優柔不断な若い新聞記者の、憂鬱な日常を描いた作品です。
 1918年に出た作者の処女作であり、代表作の一つです。

 今年2013年の2月に、岩波文庫から復刊されました。
 初版は1951年で、活字が読みにくいのですが、他の文庫では読めません。


神経病時代・若き日 (岩波文庫 緑 69-1)

神経病時代・若き日 (岩波文庫 緑 69-1)

  • 作者: 広津 和郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1951/12/10
  • メディア: 文庫



 新聞社で編集見習いをしている鈴本定吉は、自分の意志を貫けない若い男です。
 家庭では妻に支配され、職場では上司に支配されています。

 こんな生活から抜け出して、田舎でトルストイをぞんぶんに読みたい。
 と、勝手な空想をしていますが、実行する勇気はありません。

 ある夜、酔っ払った友人に、殴られそうになったことがきっかけで、
 定吉の神経は、しだいおかしくなっていき…

 この作品は、タイトルに惹かれて、ずっと気になっていました。
 2月に復刊されて、ようやく読むことができました。ありがたい。

 タイトルが「神経病時代」とあるけど、「時代」に責任はありません。
 周りに流される定吉自身に、問題があると思います。

 「あさましい! これが生活か!」と、嘆くばかりで、何もできません。
 「甘ったれるんじゃないよ」と言って、横っ面をひっぱたいてやりたくなります。
 が、その一方で、このダメさかげんに、とても親近感を持ってしまいました。

 特に、友人河野と二人で男泣きする場面は、カッコ悪すぎて好感が持てます。
 定吉の仲間も皆、ダメ男たちばかりで、実に良い味を出しています。

 この小説は、私の中で、ダメ男系列の作品です。
 佐藤春夫の「田園の憂鬱」と、イメージが重なります。

 さて、同時収録の「若き日」は、若き日の恋を描いた自伝的な作品です。
 しかし心を打ったのは、文章からにじみ出る、父に対する愛情です。

 流行遅れとなった父柳浪は、文壇から遠ざかり、収入が途絶えました。
 苦しい生活を送りながらも、息子は父に、深い尊敬の念を持ち続けます。

 ちなみに「柳浪傑作選」は、和郎の紹介で、出すことができたのだそうです。
 このたび復刊された柳浪の悲惨小説も、ちょっとだけ読みたい気もしました。


河内屋・黒蜴【カゲ】―他一篇 (岩波文庫)

河内屋・黒蜴【カゲ】―他一篇 (岩波文庫)

  • 作者: 広津 柳浪
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1952/09/25
  • メディア: 文庫



 さいごに。(なかなか帰らない娘)

 下校時刻は1時半。それなのに、4時近くまで帰らなかったといいます。
 心配して妻が迎えに行くと、娘は近所の男の子と一緒に帰って来ました。

 男の子は、大きなタケノコを抱えて、歩いていたのだそうです。
 いったい、どこに寄り道していたのやら。

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