「神経病時代・若き日」 広津和郎 (岩波文庫)
「神経病時代」は、優柔不断な若い新聞記者の、憂鬱な日常を描いた作品です。
1918年に出た作者の処女作であり、代表作の一つです。
今年2013年の2月に、岩波文庫から復刊されました。
初版は1951年で、活字が読みにくいのですが、他の文庫では読めません。
新聞社で編集見習いをしている鈴本定吉は、自分の意志を貫けない若い男です。
家庭では妻に支配され、職場では上司に支配されています。
こんな生活から抜け出して、田舎でトルストイをぞんぶんに読みたい。
と、勝手な空想をしていますが、実行する勇気はありません。
ある夜、酔っ払った友人に、殴られそうになったことがきっかけで、
定吉の神経は、しだいおかしくなっていき…
この作品は、タイトルに惹かれて、ずっと気になっていました。
2月に復刊されて、ようやく読むことができました。ありがたい。
タイトルが「神経病時代」とあるけど、「時代」に責任はありません。
周りに流される定吉自身に、問題があると思います。
「あさましい! これが生活か!」と、嘆くばかりで、何もできません。
「甘ったれるんじゃないよ」と言って、横っ面をひっぱたいてやりたくなります。
が、その一方で、このダメさかげんに、とても親近感を持ってしまいました。
特に、友人河野と二人で男泣きする場面は、カッコ悪すぎて好感が持てます。
定吉の仲間も皆、ダメ男たちばかりで、実に良い味を出しています。
この小説は、私の中で、ダメ男系列の作品です。
佐藤春夫の「田園の憂鬱」と、イメージが重なります。
さて、同時収録の「若き日」は、若き日の恋を描いた自伝的な作品です。
しかし心を打ったのは、文章からにじみ出る、父に対する愛情です。
流行遅れとなった父柳浪は、文壇から遠ざかり、収入が途絶えました。
苦しい生活を送りながらも、息子は父に、深い尊敬の念を持ち続けます。
ちなみに「柳浪傑作選」は、和郎の紹介で、出すことができたのだそうです。
このたび復刊された柳浪の悲惨小説も、ちょっとだけ読みたい気もしました。
さいごに。(なかなか帰らない娘)
下校時刻は1時半。それなのに、4時近くまで帰らなかったといいます。
心配して妻が迎えに行くと、娘は近所の男の子と一緒に帰って来ました。
男の子は、大きなタケノコを抱えて、歩いていたのだそうです。
いったい、どこに寄り道していたのやら。