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ファウスト博士

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 「ファウスト博士」 トーマス・マン作 関泰祐・関楠生訳 (岩波文庫)


 ある文献学者が語る、天才作曲家アドリアン・レーヴェルキューンの物語です。
 トーマス・マンの晩年の傑作で、亡命先のアメリカで執筆されました。

 現在、岩波文庫から出ています。初版は1974年。
 もともと1952年~54年に、岩波現代叢書から出たものの改訳です。


ファウスト博士〈上〉 (1974年) (岩波文庫)

ファウスト博士〈上〉 (1974年) (岩波文庫)

  • 作者: トーマス・マン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1974/08/16
  • メディア: 文庫



 ファウスト博士の物語ではありません。架空の音楽家アドリアンの伝記です。
 表紙の作品紹介を読んで、私は初めてそのことを知りました。

 さて、アドリアンは音楽の道に進むため、ライプチヒへ旅立ちました。
 案内者によって娼婦の館に連れて行かれ、そこで一人の娼婦に出会いました。

 病気治療で町を去っていた彼女を、アドリアンは追い求め、探し当てました。
 そして、彼女が与えた警告を無視して、行為におよんでしまうのです。

 これが、アドリアンの人生に、決定的な意味を与えました。
 それは、悪魔との血の契約だったのです。

 悪魔的な想像力を発揮する一方で、破滅に向かってひた走るアドリアン。
 最後の大作「ファウスト博士の嘆き」を完成させると、・・・

 さすが、「魔の山」のトーマス・マンです。この作品も、強烈でした。
 脱線しながら続くおしゃべり、感情だけが空回りする議論など、マン節も健在。

 そして、興味深いのは、二重の時間。
 「物語の内容が演ぜられている時間」と「語り手が活動している時間」です。

 この二つの時間は照応していて、「アドリアン」と「ドイツ」は重なります。
 悪魔の取引を受け入れて、狂気によって破滅に向かう「アドリアン」。
 ナチス政権を受け入れて、暴走によって破滅に向かう「ドイツ」。

 ナチス政権に抵抗していたマンは、亡命先のアメリカでこれを書きました。
 物語の語り手が至る所でドイツ批判をやっている理由が、そこにあります。

 ところで、この作品から、タルティーニの「悪魔のトリル」を連想しました。
 ムターによる演奏がオススメ。悪魔的な美しさがあります。


カルメン幻想曲~ヴァイオリン名曲集

カルメン幻想曲~ヴァイオリン名曲集

  • アーティスト: ムター(アンネ=ゾフィー),サラサーテ,フォーレ,ビエニアフスキ,タルティーニ,ラヴェル,マスネ,レヴァイン(ジェイムズ),ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2005/10/26
  • メディア: CD



 昨年末、私は地元の書店で、「ファウスト博士」を三冊一緒に購入しました。
 しかし、現在は品切れです。

 実は昨年末、同時に「ワイマルのロッテ」も二冊一緒に購入しました。
 そして、この本も上巻が品切れです。

 これら名作は、常に文庫本で手に入るようにしてほしいものです。
 品切れの本は、人にオススメしにくいので。

 さいごに。(初登山)

 今年の初登山に行きました。登山といっても、歩行は往復1時間ほど。
 寒かったけど、天気が良くて気持ち良かったです。

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