「緋文字(ひもんじ)」 ホーソーン作 小川高義訳 (古典新訳文庫)
17世紀のピューリタン社会を舞台に、姦通を犯した男女の愛と罪の物語です。
ホーソーンの代表作で、アメリカ文学の古典中の古典です。
古典新訳文庫、岩波文庫、新潮文庫などから出ています。
最も新しい訳は、古典新訳文庫の小川訳。とても分かりやすい訳です。
岩波文庫の八木訳も、比較的新しくて、読みやすい訳です。
新潮文庫の鈴木訳は、やや古いです。カバーのイラストは、3つのうちでベスト。
「税関」の章がありません。かつては序章を省略するのが一般的だったようです。
税関に勤務していた「私」は、建物の二階から、昔の記録の入った包みを見つけました。
その中には、赤い布地もありました。なぜか、Aの文字が刺繍されていました。
その布と一緒に、小さく巻いた用紙も出てきました。
そこに書かれていたのが、ヘスター・プリンの記録です。
時は、それより200年以上前。1600年代中ごろのボストン。
監獄の前には、多くの住民たちが集まっていました。
晒し者になっているのは、ひとりの美しい女。ヘスター・プリンです。
胸には緋色の「A」の文字を付け、不義の子である赤ん坊を抱いています。
相手は誰なのか。その子は誰の子か。
執拗に繰り返される質問。しかし、へスターは決して口を割りません。
晒し台で罵声を浴びても、少しもひるまず、恥辱を一身に受けています。
そんな彼女を、それぞれ複雑な心境で見守る男が2人・・・
正直に言って、前置きの「関税」の章が長くて、じれったいです。
新潮文庫などで、この章を省略したのは、それなりに意味のある処置でした。
しかし物語が一旦始まると、ぐいぐい引き込まれ、壮絶な結末までまっしぐら。
なんといっても、ヘスターのたくましい生きざまに魅了されます。
緋文字は愛と罪の象徴。この緋文字は、ヘスターを打ちのめします。
しかし、この緋文字は、同時にヘスターを鍛え上げるのです。
ヘスターの生きざまは、神々しいほどです。罪深い女なんかじゃありません。
それにひきかえ、男たちはみじめで、だらしがない。
牧師は苦悩によって、弱く惨めな存在に落ちていく。
医師は苦悩によって、陰険な策略家に落ちていく。
ヘスターよりも、この男たちの方が、よほど罪深いのではないか。
そして、その罪を許さない不寛容な社会こそ、最も罪深いのではないか。
この作品が、古典として大事にされ、時に教科書として使われるのにも納得です。
とても深い作品で、いろいろと考えさせられます。
ホーソーンには、「短篇集」もあります。
現在、岩波文庫では重版しているところだそうです。近いうちに出るはずです。
ところで、エラリークイーンにも、「緋文字」という作品があります。
ホーソーンの「緋文字」は「ひもんじ」ですが、クイーンの方は「ひもじ」です。
さいごに。(スクラッチ)
うちの娘は、今シーズンに2回もインフルエンザにかかりました。
「きっと当たり年だから、宝くじを買ったら当たるよ」とある人から聞きました。
で、さっそく娘にお金をやって、200円のスクラッチくじを2枚買わせました。
しかし、どちらもハズレ。世の中そんなに甘くない。