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Channel: 文庫で読む文学全集
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桜の園

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 「桜の園」 チェーホフ作 浦雅春訳 (古典新訳文庫)


 無為に過ごす古い世代が、美しい桜の園を手放すまでの物語です。
 チェーホフが死ぬ前年に書いた、四大戯曲の最後の作品です。

 現在、古典新訳文庫、岩波文庫、新潮文庫などから出ています。
 私にとって最も分かりやすかったのは、古典新訳文庫版です。

 浦訳の会話は、とても自然な感じです。ほか二編もすばらしい。
 いつもまぬけな古典新訳のカバーも、この本のイラストはかわいらしい。


桜の園/プロポーズ/熊 (光文社古典新訳文庫)

桜の園/プロポーズ/熊 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: アントン・パーヴロヴィチ チェーホフ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/11/13
  • メディア: 文庫



 岩波文庫版の小野訳も、新しくて分かりやすかったです。
 新潮文庫版の神西訳は、古いけど名訳として知られています。


桜の園 (岩波文庫)

桜の園 (岩波文庫)

  • 作者: チェーホフ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1998/03/16
  • メディア: 文庫



桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)

桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)

  • 作者: チェーホフ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1967/08
  • メディア: 文庫



 ラネフスカヤ夫人が、5年ぶりに、パリから帰り、歓迎を受けます。
 しかし、彼女は借金によって、破産寸前。
 美しい領地の「桜の園」は、近く競売にかけられることになっていました。

 別荘地として売り出したらどうか。商人のロパーヒンはそう提案します。
 彼はこの地の農奴の子だったので、かつての主人を助けようとします。

 しかし、肝心のラネフスカヤ夫人やその兄は、ちっとも決断できません。
 別荘地を売るために、美しい桜を切るなんて、考えられない。
 現実に目を伏せて、いつまでも過去の追憶に浸っています。

 そうして手をこまねいている間に、とうとう競売の日がやってきて…
 領地を高値で競り落としたのは、なんと…

 ラネフスカヤ夫人とその兄は、破滅から逃げるすべを知りません。
 それどころか、自分から進んで破滅に向かっているようにも見えます。

 「これは私の首に吊された重石(おもし)なの。私は重石もろとも地獄に
 真っ逆さまに堕ちていくんだけれど、私、この石が好きなの、それなし
 では生きて行けないの。」(P100)

 ラネフスカヤ夫人が、かつての恋人を重石にたとえている言葉です。
 しかし、重石には、もっと多くの意味が込められていそうです。

 さて、この作品の結末は、「かもめ」同様に悲しいです。
 しかし、「かもめ」同様、作者から喜劇として扱われています。
 チェーホフの喜劇の定義は、普通と少し違っていたようです。

 さいごに。(知られざる)

 娘(6歳)が、またしても、とっぴょうしもない質問をしました。
 「知られざる」って、どういう「サル」?という質問。

 笑いをこらえながら、真顔で教えるのが、たいへんでした。
 笑うと落ち込むので。

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