「ワーニャ伯父さん・三人姉妹」 チェーホフ作 浦雅春訳 (古典新訳文庫)
「ワーニャ伯父さん」は、薄幸の人生に耐えて、働き続けるワーニャの物語です。
「三人姉妹は」は、田舎暮らしを送る三姉妹の、恋と失望の物語です。
どちらも、チェーホフの四台戯曲の一つです。
現在二作とも、古典新訳文庫と、新潮文庫で、読むことができます。
古典新訳文庫の浦訳は、新訳で分かりやすかったです。
カバーイラストも、古典新訳文庫にしては、いい感じです。
新潮文庫の神西訳は、少し古さを感じました。
しかし、その言葉使いに、時代を超えた美しさがあり、根強いファンが多い。
「ワーニャ伯父さん」は、ワーニャが、客にうんざりする場面から始まっています。
客というのは、ワーニャの死んだ妹の夫で、退職した大学教授セレブリャコフ。
定年で帰郷した元教授は、独創性のかけらもない、凡俗な男でした。
このニセ学者に、ワーニャは、領地での儲けを全て仕送ってきたのです。
彼に期待をかけて、馬車馬のように働いてきた自分は、いったい何だったのか。
ワーニャは、自分の青春が、むなしく過ぎ去っていったことを、痛切に感じました。
しかし、そのワーニャの前で、老教授が出した提案は…
そして、それに続くワーニャの狂乱…
なんともやりきれない結末です。
しかし、優しいソーニャの存在が、唯一の救いです。
もうひとつの「三人姉妹」も、むなしく過ぎ去る青春をテーマにしています。
故郷モスクワへ帰ることを夢見ながら、三姉妹は一地方都市に埋もれてしまう。
それを決定的にしたのが、優柔不断な長男のアンドレイ。
彼は、その土地の軽薄な娘ナターシャと、結婚してしまったのです。
あとになって、アンドレイは嘆きます。
「現在と未来が希望にかがやいていたあの過去はどこに消えたんだ?」(P291)
私は言ってやりたい。ばかだね、あんたが自分で放り出したんじゃないか!
そして姉妹も、三者三様に希望を失っていき…
これまた、じつに哀切な結末です。
しかし、「ワーニャ伯父さん」も「三人姉妹」も、「それでも生きて行かなくては」
という言葉で締めくくられています。ここに、チェーホフの主張がありそうです。
さいごに。(タツノオトシゴ)
ちょっと前のことですが、しらすを食べていると、娘が「エビ!」と言いました。
よく見てみると、体が巻いていて、エビらしくはありません。
どうも、タツノオトシゴの赤ちゃんのようなのです。
しらすにエビが混じっていることは、よくあるけど、タツノオトシゴは初めてです。
タツのように娘の運気も上がってほしい。しかし辰年も、もう終わりですね。