Quantcast
Channel: 文庫で読む文学全集
Viewing all articles
Browse latest Browse all 714

夜はやさし

$
0
0

 「夜はやさし」 フェッツジェラルド作 谷口陸男訳 (角川文庫)


 ある精神科医と、精神を病んだ妻の、十数年の結婚生活を描いた物語です。
 フィッツジェラルドの最後の長編で、自伝的な要素が多い作品です。

 現在、角川文庫で読むことができます。
 初版は1960年。訳は古いので、正直に言って、分かりにくかったです。


夜はやさし(上) (角川文庫)

夜はやさし(上) (角川文庫)

  • 作者: フィツジェラルド
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/06/25
  • メディア: 文庫



夜はやさし(下) (角川文庫)

夜はやさし(下) (角川文庫)

  • 作者: フィツジェラルド
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/06/25
  • メディア: 文庫



 前途有望な精神科医ディックは、ある診療所でニコルという少女に出会いました。
 彼女は美しく、富豪の娘であり、その診療所の患者でした。二人は恋に落ちます。

 周囲の反対を押し切って結婚した二人は、一見幸せな夫婦でした。
 しかし実際は、平和も幸福も、微妙な均衡の上に成り立っていたのです。

 二人の前に、若き女優ローズマリーが現れると、その均衡は崩れて・・・
 やがて事態は、取り返しがつかない段階に進んでゆき・・・

 読み終わってから、一つの疑問が湧きました。
 そもそもディックは、ニコルを愛していたのだろうか?

 彼が結婚したのは、一人の女性ではなく、一人の患者だったのではないか?
 ニコルとの結婚の動機は、愛よりも責任の方が、大きかったのではないか?

 私には、結婚からすでに、ディックの転落が始まっていたように思えます。
 ディックはそれを自覚しながら、落ちるに任せていたのではないでしょうか。

 そこには、なんともいえない甘美さがあります。
 村上春樹だったら、そういう甘美な悲哀を、うまく訳してくれるでしょう。

 さて、この作品の発表時、「ギャツビー」の成功から9年がたっていました。
 すでに、フィッツジェラルドは、過去の人になっていたのです。

 フィッツジェラルドは、作品が売れず、アルコールに溺れていました。
 美しき妻ゼルダは、精神を病み、病院で療養していました。

 精神を病んだ妻に翻弄されて、しだいに破滅に向かうフィッツジェラルド。
 「夜はやさし」の「ディック」は、まさに作者の分身です。

 ところでこの作品には、エピソードの順序が違う二つのバージョンがあります。
 この角川文庫版は、決定版ということ ですが、作者の死後に編集されたもの。

 ほかに、作者自身によって出版された、オリジナル版が存在します。
 破綻があるものの、オリジナル版の方が、劇的な展開になっているようです。

 今年2014年7月に、オリジナル版の新訳が出ました。解説は村上春樹!
 しかし、単行本で4536円。いつか文庫化されたら読みたいです。

 さいごに。(柳美里さんへの原稿料未払い)

 雑誌「創」の柳美里さんの原稿料が、何年も支払われていなかったそうです。
 出版界が自転車操業であることは分かりますが、これはないでしょう。

 こんな不義理をしてまで、刊行を継続する意味が、あったのでしょうか。
 「創」は、マスネディア批評をする雑誌。次号では自分自身を批評してほしい。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 714