ラスト・タイクーン

　「ラスト・タイクーン」　フィッツジェラルド作　大貫三郎訳　（角川文庫）


　ハリウッドを舞台に、大物プロデューサーの栄光と没落を描いた小説です。
　フィッツジェラルドがアル中による心臓発作で亡くなったため、未完です。

　角川文庫から出ています。1977年の訳で、少し分かりにくいです。
　書かれなかった物語の構想が、巻末に丁寧にまとめられています。





　主人公は大手映画会社のプロデューサー、モンロー･スターです。
　スターは、そのセンスと才能によって、若くして重要な地位を築きました。

　一見華やかに活躍しているスター。しかし、彼は孤独を感じていました。
　亡き妻ミナの美しい姿を、いつまで も忘れられなかったのです。

　あるとき彼は、偶然の出来事によって、ミナにそっくりの女性に会い・・・
　しかし彼女は・・・そして二人は・・・

　興味深いストーリーです。しかし正直に言って、読みにくい文章でした。
　語り手がころころ変わるし、話が時々飛ぶし、しかも未完だし。

　例えば「夜はやさし」は、村上春樹が訳せば、ぐっと良くなる気がします。
　しかし、この作品は、手のほどこしようがない（ように感じられます）。

　それでもこの作品には、読む価値があります。
　落ち目の作者があがきながらも、最後の一瞬のきらめきを見せるからです。

　実際この作品は、発表当時、大いに評判になりました。
　と同時に、フィッツジェラルド の全作品が、見直される契機となりました。

　皮肉です。借金と酒に滅んだかつての英雄は、急死によって蘇ったのです。
　彼の晩年は、「アメリカ文学史上最も知られた悲喜劇」とも言われます。

　この作品が未完に終わったのも、作者の人生を象徴しています。
　ファンの中には、「ギャツビー」よりも「タイクーン」を推す人もいます。

　さいごに。（ベネッセから）

　ベネッセから娘に、図書カードが届きました。情報漏えいのおわびです。
　娘は喜んでいます。心理テストの本（子供向け）を買うと言っています。