「平凡物語」 ゴンチャロフ作 井上満訳 (岩波文庫)
田舎育ちの青年の希望が、都会生活の中で、徐々に打ち砕かれていく物語です。
ドストエフスキーとほぼ同時期に活躍した作家、ゴンチャロフの出世作です。
2010年に、岩波文庫から出ています。
1952年に出た翻訳ですが、少しも古さを感じません。読みやすかったです。
都会生活に憧れる青年アレクサンドルは、叔父を頼ってペテルブルクに出てきます。
叔父ピョートルは、甥のアレクサンドルに、さまざまなことを教えます。
叔父ピョートルは、経験豊富な実際家。甥ピョートルは、ロマンチックな空想家。
この二人の会話がかみ合わなくて、面白い面白い。
夢や希望を語る甥に対して、叔父は「田舎に帰った方がいい」と、平気で言います。
叔父に悪気はありません。それどころか、その忠告の正しさは徐々に証明されます。
当初、自分の才能の豊かさと、精神の高潔さを信じていたアレクサンドルでしたが、
都会生活の8年の間に、少しずつ叔父に影響され、周りに染まっていき…
そして、とうとう … ああ、平凡物語!
エピローグでの、アレクサンドルの変わりようには、力が抜けてしまいます。
さて、この小説は二部構成になっていますが、前半「第一部」の方が断然面白い。
特に、第2章と第3章が読みどころ。叔父と甥の会話は、まるで漫才です。
作者ゴンチャロフは、出世作「平凡物語」を書いたとき、まだ20代の初めでした。
代表作「オブローモフ」を書いたのは、それから25年後で40代後半のこと。
「オブローモフ」は、ロシア文学の伝統「余計者」を描いた典型的な作品です。
この傑作を、どうしても読みたいのですが、岩波文庫版は絶版で品切れ状態。
「オブローモフ」から更に10年後、最後の傑作「断崖」が書かれました。
「断崖」は、岩波文庫から、改版の全5冊が、最近完結したばかりです。
さいごに。(妻のカゼが治ったとたんに)
妻が1週間ほどカゼをひいていました。
その間、娘はとても良い子で、進んでお手伝いをしたりしていました。
しかし、妻のカゼが治ったとたん、わがままになり、いばるようになりました。
それまで、娘なりにいろいろと、我慢していたのでしょうね。