「月を見つけたチャウラ ピランデッロ短篇集」
ピランデッロ作 関口英子訳 (古典新訳文庫)
おかしいのにどこか悲しく、死と狂気をひしひしと感じさせる短篇集です。
作者はイタリア人劇作家で、1934年にノーベル文学賞を受賞しました。
光文社古典新訳文庫から2012年に出ています。
200篇以上の短編から15編が選ばれています。訳は分かりやすかったです。

月を見つけたチャウラ―ピランデッロ短篇集 (光文社古典新訳文庫)
- 作者: ルイジ ピランデッロ
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2012/10/11
- メディア: 文庫
主人公の多くは、日常のひとコマで、突然あることに気付き驚愕します。
自分は今まで自分の人生を生きてこなかった、自分は本当の自分ではない!
こういう恐怖が、おそらく世界でいちばん怖い。
では、その中で特に味わい深かった作品について、以下に紹介します。
「手押し車」は、ある著名な弁護士の狂気を描いています。
「わたし」は家の前で気付きます。ここに住んでいる男は自分ではない!
「わたしは、これまでけっして生きたことなどなかった。一度だって人生
に存在したことはなかった。」(P124)そして、ふとよぎる狂気・・・
「自力で」は、3年前に破産して、死んだように生きる男の悲劇です。
「いまの自分は、いったい誰なのか? 何者でもないではないか。」(P199)
そして、ふと思います。自分はもう死んでいる、いるべき場所へ行こう!
彼は、ある場所を目指して、ゆっくりと歩き始めます・・・せつない話です。
ほか、「ひと吹き」(自分のあるしぐさで、次々に人が死んでいく)や、
「フローラ夫人とその娘婿のポンツァ氏」(誰が嘘をついている?)や、
「貼りついた死」(死が貼りついて離れない)など、傑作ぞろいです。
ちょっと異色だったのは「甕」で、この作品だけは笑えました。
親方はいかにして危機に陥り、いかにして危機から脱したのか?
さて、解説によると、ピランデッロ自身、人生にとても翻弄されました。
「人生はとても悲しい道化に似ている」とは、彼自身が放った名言です。
ピランデッロの作品は、日本ではあまりお目にかかれませんでした。
だからこの短篇集は、とても貴重な本だと思います。
さいごに。(妹の話)
熊本で被災した妹が、一時的に帰ってきました。
避難所生活を体験した人でないと分からないような、貴重な話を聞きました。
最も印象的だったのは、やることがないのがつらかったということです。
余震におびえながら、何もできないでいるということが、とても苦痛だった、
むしろ何か仕事を割り振られた方が、精神のバランスを保てたとのことです。