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スプートニクの恋人

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 「スプートニクの恋人」 村上春樹 (講談社文庫)

 (今回の記事はネタバレが多いです)

 あちらの世界に迷い込んだ「すみれ」と、彼女を探し求める「ぼく」の物語です。
 1999年に出た9作目の長編小説で、文体の総決算として書かれました。

 2001年に講談社文庫に入りました。
 その頃一度読みました。今回再読しましたが、内容をほとんど忘れていました。


スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/04/13
  • メディア: 文庫



 すみれは22歳の春に、初めて恋に落ちました。それはとても激しい恋でした。
 相手はミュウといって、17歳も年上で、結婚していて、しかも女性でした。

 この恋はわたしをどこかに運び去ろうとしている、どこか特別な世界へ。
 そう予感しながらも、すみれはミュウから身を引くことができません。

 あるとき、ミュウがすみれに言いました。
 「今から14年前に、わたしは本当のわたしの半分になってしまったのよ。」

 14年前に、ミュウには何があったのか?
 半分になってしまったというのは、どういうことか?

 その夏、「ぼく」のところに、ミュウから国際電話が入りました。
 「ぼく」はギリシャの小島に飛び、すみれが失踪したことを知りました。

 すみれに、何があったのか? どこへ行ったのか?
 最後の場面、すみれは帰って来たのだろうか・・・

 「スプートニク」とは、ロシアの人工衛星の名前です。意味は「旅の連れ」。
 そして今も、この真っ暗な宇宙空間のどこかを、ひとりさまよい漂っています。

 すみれはミュウを「スプートニクの恋人」と呼びます。
 すみれもミュウも「ぼく」も、スプートニクのようにどこにもたどり着けません。

 「わたしたちは素敵な旅の連れであったけれど、結局はそれぞれの軌道を描く孤独
 な金属の塊に過ぎなかった・・・」(P179)

 さて、私は個人的に、語り手の「ぼく」に共感できませんでした。
 彼は、成り行きから小学校教員になり、自分が何をしたいのかも分かっていない。

 すみれの代わりに他の女で欲望を満たし、今は児童の保護者と不倫をしている。
 そのくせ、すみれには何かと偉そうで気取ったことを言っています。

 「世界のたいていの人は、自分の身をフィクションの中に置いている」とか言って。
 フィクションの中に閉じこもっているから、お前はダメなんだ、と言ってやりたい。

 しかし一方で、そういう男だからこそ、あちら側に入りかけたのだとも言えます。
 あちら側とは、すみれやミュウが作りだしたフィクションの世界のようだから。

 最後の場面ですみれが帰ってきたのかどうか、いろいろと論議されているようです。
 ちなみに私には、この場面もまた、「ぼく」のフィクションとしか思えません。

 余談ですが、この作品を読んでいて、プラトンの「饗宴」を思い出しました。
 人間は自分の半身を求めているのだ、それが愛なのだ・・・


饗宴 (光文社古典新訳文庫)

饗宴 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: プラトン
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/09/10
  • メディア: 文庫



 それから、ルナールの「にんじん」も読んでおかなければと思いました。


にんじん (新潮文庫)

にんじん (新潮文庫)

  • 作者: ジュール ルナール
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/09/27
  • メディア: 文庫



 さいごに。(日本のリレーに感動)

 家族旅行の間に、4×100mリレーの決勝がおこなわれました。
 家に帰って録画を見て、世間から3日ほど遅れて、感動を味わっています。

 今回のメンバーはスゴイと思っていましたが、まさかアメリカを抑えて銀とは!
 しかも38秒60という驚異的な記録! 本当にスゴイ。

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