「ヴェニスに死す」 トーマス・マン作 高橋義孝訳 (新潮文庫)
ヴェニスに旅した老作家が、そこで出会った美少年に心を奪われる物語です。
マンがヴェニスに旅行したときの、実体験をもとにした中編小説です。
現在、新潮文庫、古典新訳文庫、岩浪文庫、集英社文庫などから出ています。
最も新しい訳は、もちろん古典新訳文庫版。読みやすいです。
しかし、私が読んだのは、新潮文庫版。「魔の山」と同じ高橋訳です。
カバーの病的な美しさは、「ヴェニスに死す」のイメージにぴったり。
50代の著名な作家アシェンバハは、旅先のヴェニスで美しい少年に出会いました。
少年はまだ10代前半。家族から、タージオと呼ばれていました。
やがてヴェニスに、異変が訪れて・・・
しかし、少年を愛し始めたアシェンバハは、ヴェニスを離れずに・・・
テーマは少年愛。しかも主人公は50代の男。当時は話題になったようです。
1971年に映画化されて、カンヌ映画祭で25周年記念賞を受賞したのだそうです。
さて、マンは30代のときヴェニスを訪れ、11歳の美少年に夢中になりました。
帰国してから、その体験をいっきに書き上げたのが、この作品です。
アシェンバハが、少年を付け回す場面は、切なくて、アホらしくて、見苦しい。
同じことを、作者マンがおこなっていたとは、思いたくないです。
面白いことに、この少年のモデルが分かっています。
ポーランドのある男爵です。
彼は、公開された映画を見て、自分がモデルになっていることに気付いたそうです。
そのとき彼は、すでに70代。そして、作者のマンは、死んでいました。
余談ですが、この作品でマンは、ゴンドラをについて次のように述べています。
ヴェニスに行って、ゴンドラに乗ってみたくなります。
「古い物語的な時代から引続きそのままの形で伝わっていて、この世の中にあるものの
中では棺だけがそれに似ている、この異様に黒い不可思議な乗物ーーゴンドラは小波の
音しか聞こえぬ夜の、静けさの中に行われた犯罪的な冒険を想い起させる。」(P152)
さいごに。(どんくさいところがまた・・・)
娘が、学校の支度をするのがのんびりで、とてもどんくさいです。
妻はよくイライラしています。
私もどんくさかったので、娘のどんくささが、かえってかわいく思えるのです。
で、この温度差が、また夫婦間のトラブルのもとに・・・