「下流志向」 内田樹 (講談社文庫)
進んで下流社会に身を投じようとする、若者の奇妙な行動の理由を解明した著作です。
副題は「学ばない子どもたち 働かない若者たち」。著者の代表作のひとつです。
2007年に単行本が出版されて話題になり、2009年には講談社文庫から出ました。
講演会で話した内容がもととなっているため、とても分かりやすく書かれています。

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)
- 作者: 内田 樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/07/15
- メディア: 文庫
最近、これまで決して見られなかった集団が、目に付くようになってきました。
「学ばないこと、労働しないことを『誇らしく思う』」という集団です。
なぜ子どもたちは、学びから堂々と逃亡するのか?
なぜ若者たちは、労働を頑なに拒否するのか?
そこには、子どもたちを取り巻く市場原理の法則が、大きく関わっています。
人生において、消費者として社会に出た子どもは、何事も等価交換で考えます。
彼らは、教育がもたらしてくれるものを、粘り強く待とうとはしません。
即座に授業の苦痛を見積もり、できるだけ賢く取引しようと計算して・・・
非常に興味深い内容でした。まさに瞠目の書です。
「なるほど、そういうことか」と、色々なことが納得できました。
市場原理、リスク社会、自分探しの思想、自己責任論、そして社会情勢・・・
様々な観点から、教育からの逃走と労働からの逃走の理由を解明していきます。
私が思うに、現代の子どもは「お客様」として扱われることに慣れています。
少子化によって、子供が大事にされすぎるようになった結果かもしれません。
そして多くの保護者もまた、自分たちを学校の「お客様」と考えているようです。
更に悪いことに、学校側も彼らを「お客様」扱いし、ご機嫌を窺がっています。
子どもが「勉強が面白くない」と言うと、保護者も社会も「そうだそうだ」と言う。
学校はそれを真面目に受け取って、「授業を面白くしよう」と努力してしまいます。
でも本当は、勉強を面白くするのは、まったく本人しだいです。
勉強には根気が必要で、根気よく学んだ者にだけ、その面白さが分かるものです。
だから、まず子どもに「面白くなるように一生懸命やってみろ」と言うべきです。
「ある程度がんばってみないと、勉強は面白くならないものだ」と教えるべきです。
最近の若者は離職率が高いといいますが、労働にも同じことが言えると思います。
「仕事が面白くない」と言う人の中には、面白くなる前に見限った人もいるのでは?
(とはいえ、ブラック企業やブラックバイトもあるので、一概には言えません。
真面目な若者を食い物にするような職場があることも、悲しい事実です。)
ところで、「下流志向」の第四章は質疑応答になっています。これがまた面白い。
特に「スターウォーズ」から師弟論を語るところなど、目からウロコでした。
内田樹が教育について語ったものには、ほかにも「街場の教育論」があります。
文庫化されたら読んでみたいです。
「下流志向」の中で、「二十四の瞳」が取り上げられていました。
あのすてきな大石先生について、意外なコメントが・・・
さいごに。(インフル)
娘の体温が急上昇したので、病院に連れて行ったら、インフルエンザでした。
娘のクラスは、その日は8人休んだのだそうです。