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Channel: 文庫で読む文学全集
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約束(石田衣良)

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 「約束」 石田衣良 (小学館)

 人生を切り開こうとする人々を描いた作品を、全8編収めた短編集です。
 直木賞受賞の翌年2004年、脂が乗り切った時期に発表した作品です。

 角川文庫から出ている本は7編収録です。
 小学館文庫から出ている本は8編収録です。


約束 (角川文庫)

約束 (角川文庫)

  • 作者: 石田 衣良
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 文庫



約束 (小学館文庫)

約束 (小学館文庫)

  • 作者: 石田 衣良
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/12/06
  • メディア: 文庫



 読んだ後、心が温かくなり、希望が持てるような作品ばかりです。
 行き詰っても必ずどこかに出口がある、というメッセージに溢れています。

 全8編のうち、マイベストは「夕日へ続く道」です。
 不登校の中学生雄吾と、廃品回収業の62歳の源ジイの友情の物語です。

 脳血栓で倒れ、体が不自由になった源ジイ。
 死ぬほどリハビリをがんばって 、全身全霊をかけて、雄吾に伝えます。

 「ちゃんと見てろ。ほんの何メートルか歩くだけで、おれはもうふらふ
 らだ。みっともなくて、だらしないだろ。・・・だがな、人間、どんな
 にバカらしくても、やらなきゃならねえこともあるんだ。」(P173)

 源ジイは雄吾にとって赤の他人ですが、雄吾を全力で支えようとします。
 落ちぶれて老いぼれた源ジイだけど、めちゃくちゃカッコいいです。

 タイトル作の「約束」は、憧れの親友を失った十歳のカンタの物語です。
 「ほんとうはぼくが死ねばよかった。」カンタは人知れず苦しみます。

 大嵐の日に、死に場所を求めてさ迷っていたカンタの目の前に・・・
 カンタは自分を取り戻せるのか? ちょっと泣ける話です。

 「天国のベル」もまた、涙なしには読めない作品です。
 耳が聞こえなくなった雄太と、必死でがんばる母の物語です。

 あの電話は、父からのものだったのか?
 雄太が突発性難聴になったのは、天国のベルを聞くためだったのか?

 「ハートストーン」もまた、涙なしには読めない作品です。
 脳腫瘍で手術をする研吾と、それを取り巻く家族の物語です。

 祖父が倒れたのは、祖父の祈りが叶えられたからなのか?
 家族の愛をしみじみと感じる物語です。

 一方で、共感できない作品もありました。例えば「青いエグジット」。
 わがまま息子にも、そのわがままを許す父にも、私は腹が立ちました。

 しかし解説の小池昌代(作家)は、この作品に惹かれたと言います。
 好みの分かれる作品です。

 「ひとり桜」や「冬のライダー」は、なかなか魅力的な作品なのですが、
 男にとって(少年にとって)都合の良すぎる展開のように思いました。

 さて、石田衣良には多くの傑作があります。次に何を読んだらいいのか?
 「池袋ウェストゲートパーク」や「4TEEN」などが無難でしょうか。

 さいごに。(先生復帰せず)

 娘の担任の先生は、まだ体調を壊したままです。大丈夫でしょうか。
 すでに3週間になります。今年60になる先生なので、とても心配です。

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